「創造する音楽の前線」
日時:平成20年7月31日(木) 18:30~20:00 (限定70名)
場所:札幌市立大学サテライトキャンパス(ニッセイビル5階)
第1部 特別レクチャー 「エレクトロニカの革新 ~SUTEKH from San Francisco~ 」
シンセサイザー、コンピュータ、サンプラー、MIDIなど電子楽器の登場によって、現代の音楽を創造する環境は大きな変化を遂げた。そして今、デジタル音楽の前線に、もうひとつ革新的な楽器としてヤマハの「TENORION」が登場した。
第1部の特別レクチャーでは、「TENORION」を用いたパフォーマンスで、更に新たな音楽地平を切り開く音楽アーティストのスーテック氏をゲストに招き、デジタルサンプリング技術のこの10年間の発展を振り返りながら、自らの音楽創造、そして最新の音楽インターフェース「TENORI-ON」の面白さを語っていただいた。そして、札幌の音楽アーティスト大黒さんが街角でサンプリングした「札幌の音」との即興セッション&デモンストレーションを行った。
TENORI-ON
TENORI-ONはメディアアーティストの岩井俊雄氏とヤマハのコラボレーションによって生まれた電子楽器。16×16個のLEDボタンを操作して(実際には操作方法および発音/発光のしかたが異なる演奏モードと呼ばれるソフトウェアプログラムを操作)、音楽の知識がなくても視覚的・直感的に作曲/演奏ができる。複数の演奏モードを同時に駆使し、音を重ね合わせて鳴らし豊かな音楽を表現する。
Sutekh (スーテック)さん
Sutekh(スーテック)氏はサンフランシスコを拠点として活動する音楽アーティスト。コンピュータ、サンプラー、シンセサイザー、アコースティック楽器を、精密、かつ荒々しく使うことによって革新的なサウンドを生みだし、多くのファンに支持されている。これまでに、イギリスのSoul Jazz(ソウル・ジャズ)やLeaf(リーフ)、ドイツのForce Inc./Mille Plateaux(フォース・インク/ミル・プラトー)、アメリカの Orthlorng Musorkなど、名門エレクトロニック・ミュージックのレーベルから、ヴァラエティに富んだ作品をリリースし続けている。99年には自らContext Free Media と、そのレコード・レーベルであるContextを設立した。世界中の音楽フェスティバル、クラブ、美術館などでライヴを重ね、音楽でもアートでもない新たなメディア表現を追及する。
第2部 パネルディスカッション「電子音楽の現在」
○DJ TOBYさん
○作曲家 浦尾 画三さん
○Sound Media Artist 大黒 淳一さん
○札幌市立大学デザイン学部助手 須之内 元洋さん
※司会・武邑光裕先生
武邑先生
今日のテーマは創造する音楽。人間にとって音楽の存在はとても大きく、長い歴史を持っています。かつては音楽を奏でる者は何らかの特殊な技術を身につける必要がありました。逆に言うと技芸を身につけた人々を音楽家と呼んで扱ってきた歴史的な経緯があります。しかし、近年のコンピュータテクノロジーの登場によって、誰でも音楽を扱えるようになりました。ゲストのみなさんには、音楽とデジタルテクノロジーの関係について、考えていることをお話しください。
須之内さん
武邑先生のご指摘のとおり、コンピュータミュージックの登場で演奏する技術が無くても音楽を表現できるようになりました。しかし、その演奏している模様をはたから見ていると、ただキーボードやボタンをいじっているだけで、「演奏している」というリアリティさがあまりありませんでした。しかし、今春、発表されたこのTENORI-ONには電子楽器なのに演奏している感があって、実に面白いと思いました。そこで、僕の提案でTENORI-ON奏者の第一人者といわれるスーテックさんを今回お呼びしたわけです。
トビーさん
DJには大きく二つのタイプがいると思います。ひとつは、自分では曲自体をいじらずに曲の構成、組み合わせの妙を伝える編集者のようなタイプ、もうひとつは他の人の曲にコンピュータテクノロジーを使ってエフェクトを与えて、新しい音楽を生み出す演奏家タイプのDJ。僕は当然、前者のストーリーテラー型のタイプで、DJなのに音楽はなるべくレコードで聴いています。普段からファーストフードばかり食べていると、本当においしいものを食べたときにおいしいと感じられなくなるのと同じように、アナログなメディアに触れることが大事だと思っているからです。もちろん、このままのスピードでコンピュータテクノロジーが発展すると、いつかデジタルがアナログを超える日が来るのだろうけど。だから結局、大事なことはアナログかデジタルかではなくて、DJであれば目の前にいるお客さんにもっと楽しんでもらうことだと思っています。デジタル化されたDJツールは便利だし、デジタルだから出来るお客の喜ぶプレイがあるのだけど、便利なだけにDJを怠け者にさせる面もあるわけですよ。こわいこわい。
浦和さん
音楽はコンピュータテクノロジーの影響をほかの形式のコンテンツに比べて最も早くから、そして大きく受けてきたと思います。シンセサイザーの登場による音源の多様化は、とても大きなインパクトがありました。音源の多様化に促されて多チャンネルのミキサー卓が開発されて、それによって一人でも重厚な音楽を生み出せるようになりました。その代表が70年代後半に有名になったシンセサイザーアーティストの冨田勲さんでした。コンピュータテクノロジーの進化は、その後も例えばマルチメディア技術の登場によって、それまでだと大きな予算をかけられるNHKの仕事じゃないと出来なかった映像とのシンクロなど、音楽の表現手法を大きく広げてくれました。しかし、デジタルになったことによる「作曲」という創造的な行為のあり方自体にはほとんど変化を感じてきませんでした。しかし、今日のスーテックさんのデモを見て、アナログだろうとデジタルだろうと、声楽を除いてこれまでは機械(ハード)を所有しなければ、音楽を創造する恩恵にあずかることが出来なかったのが、これまでハードが担ってきた音楽創造における革新をすべてソフトウェアですべて賄える、誰でもお手軽に音楽を創造する時代に入ってきたのだなあ、という率直な印象を持ちました。近づいてきたプロもアマも区別の無い時代の音楽、それは音楽というよりももっと違う呼び方をしたほうがいいと感じます。
武邑
最近では、DJにとっては秘密中の秘密とも言えるプレイリストをネットで公開してそのまま曲を視聴したり、また、ウェブ上に公開されている曲のメタデータだけをつないで新しい音楽を提供するような、驚きのサイトが生まれています。これまでも、そしてこれからも音楽の前線では、メディアテクノロジーと創造性の相互作用の先端が繰り広げられていくことと思います。今日はみなさんありがとうございました。



