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第一回産学連携講座の再録

「Roadmap to creative economy(価値創造経済へのロードマップ)」

スタンフォード大学ロースクール教授 ローレンス・レッシグ 氏
株式会社デジタルガレージ共同創業者・顧問 伊藤 穰一 氏
インターネット時代とRW文化の復興
アメリカでレコードプレーヤーが登場した時、この機械の存在が音楽や芸術の発展を妨げるという意見があった。なぜなら、プレイヤーから一日中音楽が流れる社会は、"Read-Write(RW)"文化(消費するだけではなく、表現も行うことが可能な文化)をなくし、"Read Only(RO)"文化(消費のみの受身な文化)への悪しき変容を促すと考えられたためだ。今、20世紀を振り返ってみると、この懸念はあながち間違いではなかったかもしれない。

だが、インターネットの登場は、このRO文化の中にRW文化を加えていく可能性を秘めている。インターネット時代におけるRO文化の代表例は、アップルであろう。iTuneの普及によって、ユーザーは世界のどこからでもコンテンツを消費することが可能になった。ただ、アップルがコンテンツの使用を制限し、利用を厳しく管理することで経済的優位性を確保しようとしていることは留意しなければならない。
一方、インターネット時代でRW文化を代表するのは、「リミックス」技術を活かしたコンテンツの提供サービスだ。一昔であれば、映画・放送会社が独占していたコンテンツ制作が、インターネットの誕生で普通の市民による自由でかつ安価なクリエイティブ活動を可能にした。例えば、自分の人生を撮影し、iMacで編集した映像作品はわずか210ドルで制作したものであったが、各地の映画祭で高い評価を得た。

RO文化とRW文化のコンフリクト
アナログの世界では、著作権法は必ずしも強い制御力を持ってはいなかった。例えば、本を他人に譲ったり、売ったりすることには法的に制限はなく、著作者に強く関係する部分のみに権利が発生した。しかしデジタルの新しい時代では、その状況は大きく変わった。著作物の複写は、法的にも技術的にも厳しく管理され、権利者の許諾が必要になった。現在では、著作権の保護は、一部の人間がRO文化を死守するための「武器」となっている。

そして、RW文化を推し進めることは、現行の著作権法に抵触する機会を増やすことになる。リミックスコンテンツに代表される2次著作物のほとんどは違法であるし、合法的に創作活動を行う場合には、著作権許諾に多大なコストを必要とする。ただ、RW文化は人々に発言・行動する力を与え、芸術、政治、社会など何でも好きなことを表現する機会を与えるそれだけではなく、経済的にも大きな利益を産み出すことを忘れてはならない。

それでは著作権法とPW文化推進のバランスを取るためには、どのような方法があるのだろうか。私は、作者の努力によって生み出された作品を、全て無料で利用できるようすべきだとは思っていない。あるいは、著作権法の改正といった手法もあるかもしれない。だが、今のアメリカでは、著作権の改正を唱えると「共産主義者」のような扱いを受けてしまう。

クリエイティブ・コモンズの果たす大きな役割
私たちが考えた「クリエイティブ・コモンズ(CC)」は、法改正無しでクリエイターがコンテンツの利用許諾範囲を決めるシステムである。私たちは、CCが法的にもネット上でも問題なく流通できるように日々活動を行っている。その結果、現在日本を含む約70カ国で、現地の法体系に即したライセンスを発行できるようになった。

CC対応のコンテンツから、新しい価値を持った創造物が日々生まれている。例えば、ある国のギタリストが作った曲に、別の国のバイオリニストが別の音楽を重ね合わせて新しい曲を作るという活動。これなどは弁護士には全く理解できないだろうが。また、著作権の制限的開放は、新たなビジネスモデルをも産み出している。例えば、Revver(www.revver.com)は映像投稿サイト。映像の最後に広告が付けられており、映像が見られる度にクリエイターは収入を得ることが出来る。また、CCによって認められた映像は、コピーを重ねることで、視聴の範囲が広がり更なる収入を得られるわけだ。

権利の開放は、利益を生み出す目的だけではない。多くの科学者は、自分が保有する技術を社会に還元することを大事にしている。CCでは、科学に関するナレッジをオープンにして、協同でものを創っていくプロジェクトを立ち上げている。

CCはRW文化とRO文化の対立を全て解決するものではない。だが、RW文化の申し子たちが、創作活動を行うことにより脱法者のレッテルを貼られることは、社会的にも大きなマイナスだ。CCの活用により、RW文化を推し進め、新しい価値の創造が出来れば、平和な社会を築くことにもつながっていくであろう。

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ローレンス・レッシグ http://www.lessig.org/
スタンフォード大学ロー・スクール教授

イエール大学出身で、最高裁判所の書記ののち、シカゴ大学・ハーバード大学をへて現在はスタンフォード大学で憲法・契約論についての教鞭をとる。同大インターネット社会研究所の創立者。行き過ぎた著作権保護の拡大に対する批判で知られる。フリーソフトウェア財団と自らが設立したクリエイティブ・コモンズの理事を務めている。ソフトウェア特許がオープンソースとイノベーションの脅威になると予想。2002年には、フリーソフトウェア財団のフリーソフトウェア推進栄誉賞を受賞した。2004年4月よりフリーソフトウェア財団の理事をつとめる。1961年生まれ。
『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』(1999年、邦訳版2001年)『コモンズ―ネット上の著作権強化は技術革新を殺す』(2001年、邦訳版2002年)

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伊藤 穰一 http://joi.ito.com/
株式会社デジタルガレージ共同創業者

日本におけるインターネット分野の指導的なビジョナリストおよびの起業家。タイム誌において「サイバー・エリート」、ビジネス・ウィークにおいては「日本のネット・ビルダー」、また技術分野において世界で最も影響力のある50人のうちの一人として紹介される。長期にわたってインターネット分野に貢献したことから、郵政大臣賞も受賞。

インターネット黎明期からエコシス、デジタルガレージ、インフォシークなどのネット関連企業を立ち上げる。2000年に起したネオテニーではIT関連ヴェンチャー企業の支援・投資をスタート。現在は、デジタルガレージ特別顧問、シックス・アパート会長、テクノラティジャパン取締役の他、ICANN理事(http://www.icann.org/)や、クリエイティブコモンズ ボードメンバー(http://creativecommons.org)、Mozilla Foundation理事(http://www.mozilla.org)なども務め、月の半分以上を海外にて活動している。